大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)2914号 判決 1967年3月20日
原告 増田文雄
被告 株式会社 三和倉庫
右代表者代表取締役 浅井弌
右訴訟代理人弁護士 門間進
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
事実
原告は「被告は原告に対し金一〇万二、八九九円およびこれに対する昭和四一年六月二日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、その請求の原因として「原告は昭和四〇年九月四日被告会社に雇用されたものであるが、被告会社から同四一年五月二三日城東営業所長平高輝雄を通じて予告手当金の支払を受けることなく即時解雇する旨の意思表示を受けた。被告会社の右解雇は労働基準法第二〇条に違反するところ、原告は右解雇前三ヶ月間に被告会社から別表記載のとおりの賃金の支払を受けているので、原告は被告会社に対し、被告会社から予告手当金として支払を受けうべき右三ヶ月分の賃金合計額相当の金一〇万二八九九円と同一額の附加金およびこれに対する昭和四一年六月二日から支払済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。なお、原告と被告会社間で予告手当金として三ヶ月分の賃金額相当額の支払を受ける旨の約定があったわけではないが、原告が支払を受くべき予告手当金としては三ヶ月分を相当と認める。」と述べ、被告の主張に対し「被告会社の賃金締切日が被告主張のとおりであること、原告が本訴提起後被告会社から予告手当金名義で二回に合計三万四、三二〇円の支払を受けたことはいずれも認める。」と述べ、乙第一号証の成立を認めると述べた。
被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として「原告が昭和四〇年九月四日被告会社に雇用されたこと、被告会社が同四一年五月二三日原告に対し予告手当金の支払をすることなく即時解雇の意思表示をしたこと、原告が被告会社からその主張の間に主張のとおりの賃金の支払を受けたことはいずれも認めるが、その余の原告主張事実は争う。被告会社においては、本給および臨時手当(昭和四一年五月分から職能給と名称変更)については毎月末日を賃金締切日として当月一日より当月末日までの分を当月分とし、残業手当については毎月二〇日を賃金締切日として前月二一日より当月二〇日までの分を当月分とし、ともに当月二五日に支給することになっているので、原告の平均賃金は、昭和四一年二月一日から同年四月末日までの三ヶ月間の本給および臨時手当の合計額七万五三〇〇円を右期間の総日数八九で除した金八四七円(円位以下切上げ)に、昭和四一年二月二一日から同年五月二〇日まで三ヶ月間の残業手当の合計額二万五、一七七円(被告会社は原告に対し昭和四一年五月分の残業手当として金四、四八六円を支払っている。)を右期間の総日数八九で除した金二八三円を加へた金一、一三〇円となり、被告会社が原告に対して支払うべき予告手当金の額は右平均賃金の三〇日分である金三万三、九〇〇円であるところ、被告会社は予告手当金として右金額を上回る金三万四、三二〇円を昭和四一年六月二〇日と同月二八日の二回に原告宛送金し、原告はその送金の翌日いずれもこれを受領しているので、被告会社の労働基準法第二〇条違反の状態はすでに消滅したから、原告の本訴請求には応じられない。」と述べ、証拠として乙第一号証を提出した。
理由
原告は昭和四〇年九月四日被告会社に雇用されたものであるところ、同四一年五月二三日被告会社から予告手当金の支払を受けることなく即時解雇の意思表示を受けたこと、原告が被告会社からその主張の期間に主張のとおりの賃金の支払を受けたこと、被告会社の賃金締切日が被告主張のとおりであることはいずれも当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一号証によれば、原告は被告会社から昭和四一年五月分の残業手当として金四、四八六円の支払を受けていることが認められる。
右の事実からすると、被告会社は原告に対し、平均賃金算定の事由発生日である前記昭和四一年五月二三日の直前の賃金締切日すなわち本給および臨時手当については同年四月三〇日、残業手当については同年五月二〇日から各別に起算し過去三ヶ月間に原告が支払を受けたそれぞれの賃金の合計額をその期間の総日数で各除した額を合計して算出する平均賃金の少くとも三〇日分を予告手当金として支払う義務があり、右平均賃金の三〇日分が金三万三、八六八円二〇銭(銭以下切捨て)となることは計数上明らかであるところ、原告が被告会社から本訴提起後予告手当金名義で合計金三万四、三二〇円の支払を受けていることは当事者間に争いがなく、原告と被告会社間に予告手当金として解雇直前の三ヶ月分の賃金合計額相当の金員の支払を受ける旨の約定が存しなかったことは原告の自認するところである。
ところで、労働基準法第一一四条所定の附加金支払の制度は、主として予告手当等に関する労働基準法違反に対する一種の制裁たる性質を有し、これによって予告手当等の支払を確保しようとするものであるから、使用者に労働基準法第二〇条第一項の違反があっても、すでに予告手当の支払を完了し、使用者の義務違反の状態が消滅した後においては、労働者は附加金の支払請求はできず、裁判所もその支払を命ずることができないものと解するのが相当である。
従って、すでに被告会社は原告に対し、本訴提起後であるにせよ(記録によれば本訴提起の日は昭和四一年六月二日である。)前記のように予告手当金の最低額を上回る金員の支払を了しているのであるから、被告会社の同法第二〇条第一項違反の状態はすでに消滅したものというべきである。
よって、原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九〇条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中島孝信 裁判官 今中道信 笠井昇)